雪が降ってもクマの異常出没が止まりません。秋田県内のクマの目撃件数は、11月16日時点で1万2456件と、季節が冬に変わってもその数は増え続けています。
異常と言える理由は、目撃件数の爆発的増加、加えて市街地への出没が目立つことです。2025年のクマによる人身被害は66人に上っていますが、ほとんどが市街地など私たちの生活圏で発生しています。
大館市では2025年度、11月26日までに1286件の目撃情報が寄せられています。県の情報マップシステム「クマダス」を見ると、市内全域にクマが出没していることが分かり、7人が生活圏でクマに襲われています。
2025年のクマは、まさに“神出鬼没”。大館市の観光の拠点となる温泉宿は、売りである“自然との調和”を一時諦め、様々な安全対策を施しました。
大館市の日景温泉は、青森との県境に位置する自然に囲まれた温泉宿。130年を超える歴史があります。
異常出没の中でも宿の周囲ではほとんどクマの目撃情報はありませんが、石川崇代表取締役は「10月に岩手で人身被害があってから、秋田はクマの出没も多いので危ないのではないかと、かなりの数のキャンセルがあった」と話します。
10月、岩手県北上市の温泉旅館で、露天風呂を清掃していた従業員がクマに襲われ亡くなりました。その後、日景温泉でも客からキャンセルの連絡が相次ぎました。
いまはだいぶ落ち着いてきたものの、毎日100万円分近くのキャンセルがずっと続いたといいます。
宿泊客や従業員の安全を守るため、温泉は苦渋の決断をしました。
日景温泉・石川崇代表取締役:
「通常はベニヤ板は設置していなかったが、クマの侵入を防ぎ、お客さんに安心安全に利用してもらうために設置した」
ベニヤ板の壁の通路を進んだ先にあるのは、貸し切り露天風呂です。
さらに、浴槽の周りに柵を設けました。本来は外の景色や自然の音を楽しめることが“売り”ですが、その分、野生動物が入り込む可能性があるからです。地元猟友会に相談し、クマが立ち上がっても越えられない高さに設定しました。
石川代表取締役は「まず第一に従業員の安全を確保しないといけないし、ご来館いただいたお客さんが安全・安心して利用してもらえる環境づくりをするのが務め」と話します。
クマ対策はハード整備だけではありません。チェックイン・チェックアウトの時間帯には従業員が周囲を見回りするほか、爆竹で人の存在をクマにアピールします。
建物の裏にあった樹齢60年を超える栗の木2本は、2024年のうちに伐採しました。
こうした宿の努力は、宿泊客の安心につながっています。
客のアンケートをみると「貸し切り風呂の柵は残念ですが、クマ対策としては必要なことですね」「クマ対策がしっかりされていてありがたかったです」「安心して温泉に入ることができました」など、対策を評価する声が多く届いていました。
一方で、日景温泉は四季折々の自然を間近で感じられるのが魅力の一つ。自然との調和と安全確保を両立させるため、今後も試行錯誤を続けます。
石川代表取締役は「これからの季節、雪見風呂を楽しみに来る人も多くいる。クマ対策は万全にしているので、皆さまのお越しをお待ちしています」と呼びかけています。
11月27日(木)18:00