クマの異常出没は観光誘客に大きな影響を及ぼしています。秋田県内は紅葉シーズンにクマによる人身被害が相次ぎました。ほとんどが私たちの生活圏で発生しているため、生活への直接的な影響はもちろん、地域経済にも暗い影を落としています。
宿泊施設では、客からクマに関する問い合わせやキャンセルが相次いでいます。そんな中、湯沢市の旅館は様々な対策を講じて客を迎え入れています。
湯沢市皆瀬の大湯温泉「阿部旅館」は奥小安峡に位置し、200年以上の歴史を持ちます。自然に囲まれたこの土地で、代表の阿部司さんが大切にしているのは、訪れた人がまるで自分の家に帰ってきたようなもてなしです。
ところが10月9日、旅館近くで70代の女性がクマに襲われたほか、市内の住宅にクマが入り込み、とどまりました。
阿部旅館・阿部司代表:
「クマは出ているか、クマはどうなのかなど、予約の段階で確認の電話がかなり多い。去年は全くキャンセルがなかったが、今年はテレビなどを見てクマが出ていると知り、予約のキャンセルが10件ほどあった」
クマ対策として阿部さんが始めたのが「ロケット花火」です。毎日夕方、旅館の露天風呂に隣接する山に向かって欠かさず打ち上げています。
旅館周辺ではクマの目撃情報はありませんが、山全体に響くように打ち上げる角度を工夫しています。
火薬のにおいは、クマを遠ざける効果があるとされています。
客と従業員の安全を守ろうと対策を講じていますが、ロケット花火は1本400円。毎日使用すると経済的負担は少なくありません。
阿部さんは「クマが出てからでは遅い。出ないように、あくまで予防の意味でやっている」と話します。
また旅館では、クマの状況や対策を多くの人に包み隠さず伝えることを心がけています。
「旅館に来てみたら対策をしていると、ある程度安心感を持ってもらい、客との信頼関係を築いていきたい」と話す阿部さん。
客の不安に寄り添うために、ブログにはあえて「クマが心配でのキャンセルも受け付けております」との文面を載せています。
阿部司代表:
「少しでも不安や心配をしているお客さんに、うちはクマが出ていないから大丈夫とは言えない部分があるので『落ち着いたら来てください』という対応しかない」
阿部さんが試行錯誤しながら営業を続けるのは、ある強い思いがあるからです。
阿部司代表:
「われわれがずっと昔から温泉文化の中で営業してきた場所を守る。クマのために営業停止にならないように続けていきたいという思いが強い」
クマにより営業を脅かされる異例の事態。一刻も早い終息を願うばかりです。
11月25日(火)18:30