ハイビスカスなどの色鮮やかな花で飾られたのは、北マリアナ諸島の中心地サイパンに残されている旧日本軍の戦車です。

花を飾り付けようと考えたのは、秋田市出身のフラワーアーティストの女性。

「世の中の武器がすべて花だったら…」そんな女性の想像から戦後80年の節目で実現したプロジェクトを追いました。

秋田市出身の金森鮎美さんです。現在は、にかほ市に住みながら国の内外で花を使って様々な作品を作るフラワーアーティストとして活動しています。

「戦車に花を生ける」

今回のプロジェクトの発想の原点は、金森さんが子どもの頃、家族でサイパンに旅行した際に目にした景色でした。

金森鮎美さん：
「きれいな海があって南国でハッピーな雰囲気。でもそこにぽつんと朽ちた戦車がある。後から調べていくと、そこは元々日本の領土でたくさんの日本人が住んでいて、そこで亡くなったというのを知って、戦後80年に戦車に花をみんなで生けて、お祈りの企画になったらいいんじゃないかと」

リゾート地としても知られているサイパンは、第一次世界大戦後、日本の領土となり日本人2万人以上が暮らしていたといわれています。

しかし、太平洋戦争が始まるとアメリカとの激しい地上戦の舞台となり、現在も島のあちらこちらに旧日本軍の戦車や大砲などが残されています。

2025年7月から準備を始めた金森さん。歴史的な背景から現地で理解が得られるか、実現に向けて大きな壁を感じていました。

金森鮎美さん：
「今はアメリカの領土になっていて、前の敵国が戦車に花を飾るというのはとてもセンシティブでかなりデリケートな部分だったので、それが実現できるのか全く分からなかった」

しかし、そんな不安をよそに現地の政府はすぐに認め、一緒に祈りを捧げました。

花は島の農園などから協力を得て、ハイビスカスやプルメリアなど600本ほどを手配。住民など合わせて60人が戦車を花で飾り、戦争で亡くなった人々に思いを寄せました。

金森鮎美さん：
「みんなで国境や世代を越えて、言葉も通じないのにみんなで笑顔で、過去につらい経験をした戦車に花を生けてアートにするというその光景が、言葉にはならないくらいすごく美しくて、結構周りでは泣いている人もいた。だから『これが平和だ』とそこの空気でみんなで感じた。すごく素晴らしい宝物のような時間だった」

戦後80年の節目で実現したこのプロジェクト。

金森さんは花を使ったアートでこれからも平和や命の尊さを伝えていきます。

金森鮎美さん：
「今後はサイパンを始まりとして、もちろん日本でもそういう何か戦争の遺構だったり、ネガティブな要素が残るものにみんなで花を飾って、一つのアートとして昇華させていくということをこれからもやりたいと思うし、世界中でそういった悲しい出来事はたくさんあると思う。世界を花で一つにするということをこれからもやっていきたい」

09月04日(木)15:00