立冬を過ぎコートやセーターなど冬物の衣類が活躍する時期になりました。2025年は10月に入っても真夏日一歩手前の暑さとなる日もあり、衣替えのタイミングを迷ったという人も多いのではないでしょうか。こうした中、クリーニング店の「書き入れ時」に変化が起きているようです。厳しい状況に技術で立ち向かおうと奮闘する店を取材しました。
秋田県湯沢市に本社を置き、県内で4店舗を展開するクリーニング店「仕上屋」です。
例年、衣替えのため夏物や本格的に使用する前の冬物の衣類が持ち込まれるのは9月下旬から10月上旬がピークですが、高橋友広社長は「10月まで暑かったので依頼がほぼ無いような状態で、ようやく11月に入って衣類の入れ替えが始まってきた」と話します。
例年であれば秋の衣替えの時期に合わせてセールを開催していますが、今シーズンは採算が見込めないため、中止にすることも検討しています。
仕上屋・高橋友広社長:
「春は冬物の衣替えはあるが、秋の売り上げの盛り上がりは年々少なくなってきている。おそらくクリーニング市場は広がっていくことはなくて、その流れは止めることができない」
クリーニング業界全体が苦境に立たされる中、仕上屋はベビーカーやチャイルドシートの洗浄など、衣類に限らず様々なものをきれいにするサービスを生み出してきました。
新たな需要を掘り起こそうと利用客の「困り事」を徹底的に聞き取った結果、衣類の「におい」に困っているという声が多く聞かれたといいます。
実際に仕上屋に持ち込まれた洗濯物を嗅いでみると、色々なものが混じり合ったようなにおいが。
衣類には、家庭での洗濯では落としきれない皮脂や汗などのにおいが蓄積していき、洗剤や柔軟剤の香りが混ざることでさらに悪臭となることもあります。
石鹸(せっけん)メーカーが全国の20~60代の男女を対象に行った調査によると、洗剤や柔軟剤に含まれる人工香料によって体調不良を起こしたことがある人は45%でした。
「におい」が引き起こす健康被害は「香害」と呼ばれ、近年社会問題として注目されつつあります。
これまで培った技術を「香害」対策に応用するすべを探るため、高橋社長は、あきた企業活性化センターが運営する「INPIT」や「県よろず支援拠点」に相談。
洗浄技術をブラッシュアップし、衣類に蓄積したにおいをリセットする「ゼロクリーニング」を完成させました。
「ゼロクリーニング」では、初めに県立大学と共同で開発した特許技術を応用した洗剤を、洗濯物の重さに合わせて調合します。
成分や配合はもちろん企業秘密ですが、この洗剤がしつこいにおい・汚れを落とします。40℃前後のぬるま湯でも効果を発揮するため、衣類の傷みを防ぐこともできます。
すすぎまで終わったら洗濯物を専用の機械にセットし、温風で乾かしながらしわを伸ばします。
この機械を導入したことで、大量に注文がある時は仕上げ作業だけで3時間かかっていたのが30分ほどに短縮。人件費などのコスト削減につながり、「ゼロクリーニング」は1枚110円という低価格で提供できることになりました。
洗濯後の衣類は無臭にリセットされていて、2~3週間ほどは家庭で洗濯してもにおいが蓄積しないということです。
利用客からは、においが消えたことに加え、衣類を捨てずに済んだという喜びの声も届いているということです。
仕上屋・高橋友広社長:
「食品で言う『フードロス』をなくす、衣類を捨てなくていい環境・サイクルをつくりたい。客と一緒に取り組んでいけたらいいと思う」
確かな技術力が生み出した新たなサービスは、香害の対策だけではなく、一つのものを長く大事に使うことにもつながっているようで、物価高騰で節約が迫られる中でも一役買いそうです。
11月13日(木)17:00