2025年の秋田県内を振り返り、『異常』という言葉で真っ先に思い浮かぶのが「クマ」ではないでしょうか。山あいの地域だけでなく、中心市街地などにクマが相次いで出没し、私たちの日常生活に大きな影響が出ました。移動は車で、散歩や外遊びを控えるなど生活が一変しました。2025年の出来事を振り返りながら、今後のクマ対策を考えます。
◇市街地でクマ被害多発の異常事態◇
市街地でのクマの目撃情報が爆発的に増加したのは秋。市街地での人身被害が次々と発生します。
10月20日朝、湯沢市中心部で男性4人が立て続けにクマに襲われました。このうち1人は自宅玄関を出てすぐクマと遭遇。クマは男性を襲った後、開いていた玄関扉から男性の自宅に侵入。そのまま6日にわたり中にとどまりました。
クマが居座った家の住人:
「クマを閉じ込めておけば警察が来るだろうし、すぐ終わると思っていた。1週間もかかってしまって、まさかですよね」
市街地での出没が特に目立った秋田市では、まさかという場所で次々とクマが目撃されました。
千秋公園は、一時的な解除を含めて約3週間にわたり立ち入りが制限されました。園内でクマ2頭が捕獲された後も目撃が続きました。
山あいの集落では、尊い命が奪われました。東成瀬村では、農作業をしていた男女がクマに襲われました。悲鳴などを聞き、駆けつけた男性2人も被害に遭い、このうち1人が亡くなりました。
◇ペットの犬もクマ被害受ける◇
被害は人だけにとどまりません。クマは家族の一員のペットにも牙をむきました。
飼い犬がクマに襲われた男性は「自分たちは何も持っていなかったから、爆竹を鳴らすしかないと思っているうちに、クマに犬が引っ張られて何もわからなくなった」と話していました。
これまでに、住宅の庭などにいた飼い犬がクマに襲われたとみられる被害が4件発生しています。
◇出没パターンや行動に変化◇
クマの生態を研究する秋田県立大学の星崎和彦教授は、クマの出没パターンと行動の変化を指摘します。
星崎和彦教授:
「秋田市であれば、秋田港とか海岸地帯に何度も出てくるようになり、秋田駅前のような市街地に出没するという変化が、2023年の大量出没よりもエスカレートした」
被害があった時間帯・場所・状況にも異変が起きています。
星崎和彦教授:
「人が襲われる被害は、以前は圧倒的に明け方や薄暮の時間帯、夕暮れが多かったが、今年度は日中にも結構あった。人が複数いても襲われる例があった。人とクマがどちらもどのように振る舞えば安全かを分かるのが山里で、どちらも分からないのが街中」
まさに2025年は「いつでも、どこでも、誰でもクマに遭遇する恐れがあった」と言えます。
また星崎教授によりますと、街中に現れるクマは身を隠そうとしても隠れられる場所がなく、パニック状態になっているため、いつ、どこで被害が発生するか予測できません。
◇里の縮小・人口減・高齢化が要因◇
星崎教授は、市街地にクマが増加している理由に「里の縮小」「人口減少」「高齢化」を挙げます。
県内では2025年、クマに襲われるなどして4人が亡くなり、62人がけがをしています。
このうち、いわゆる「人里」で被害に遭ったのは63人。つまり、ほとんどが私たちの生活圏での被害です。
また時間帯別では、4割にあたる27人が、これまではあまりなかった「日中」に襲われました。いかにクマの存在が私たちの生活に入り込んでしまっているかが分かります。
◇国も本腰入れてクマ対策に乗り出す◇
異常と言える事態を打開しようと、国は新たな取り組みをスタートさせました。
9月、改正鳥獣保護管理法の施行に伴い、市街地での発砲を許可する緊急銃猟が始まりました。
緊急銃猟は、県内では横手市や秋田市などでこれまでに6件実施されました。
秋田県・鈴木健太知事:
「すべての県民の皆さんが日常生活に大きな支障をきたしているという、まさに異常事態。国の方に防衛省、自衛隊の力を借りなければ国民の命が守れないという状況」
クマ出没の異常事態を受け、鈴木知事が自衛隊の支援を要望。陸上自衛隊は11月、県内12の市町村で延べ924人が活動し、箱わなや駆除されたクマの運搬、ドローンでの情報収集などにあたりました。
横手市・高橋大市長:
「自衛隊の本来任務とは違うが、人の力ではいかんともし難い事態に住民に安心をもたらすもので、感謝しかない」
警察はクマの駆除に乗り出しました。国家公安委員会規則が改正され、警察官がライフル銃でクマを駆除できるようになりました。
秋田県警には「熊駆除対応プロジェクトチーム」が発足し、クマの出没で緊急の対応に迫られた時などに出動します。
県警のプロジェクトチームは、12月18日までに出動はありませんが、様々な取り組みは一定の成果を挙げたと言えます。
◇人とクマのすみ分けが重要◇
一方で、今後重要なのは、私たちがクマとのすみ分けができるかどうかです。
県立大学・星崎和彦教授:
「里を人臭くするというのが、長い目で見れば、一番効果が出ることだと思う。疑似的にでもいいから人と里の往来を取り戻したり、里に日中だけ人がいるようにするとか。街のあり方やスケールを再デザインする時期にある」
◇「自分事」と捉え日常の見直しを◇
国や県・市町村が対策に乗り出していますが、私たち一人一人が自分事として捉え、日常を見直すことも重要です。
クマに存在を知らせる、一人で行動しない、適切なごみ捨ての徹底、農作物の放置をしない、空き家周辺の柿や栗の木の管理などが、すぐにできる対策に挙げられます。
12月に入り、クマが冬眠する時期を迎えて目撃件数は減ってきています。ただしクマの脅威がなくなったわけではありません。
星崎和彦教授:
「最近雪も増えたし、日中の気温が低い日もかなり増えたので大半は冬眠した。しかし、どこで冬眠しているかが分からない。街中で冬眠することも可能。ちょっとした物陰でじっとしているかもしれないし、山に帰ったかもしれない。クマの冬眠はうたたね程度で、気温が10度になるとか、暖かい日が数日続けば起きてしまう。そういう冬眠。冬の間、いつクマが出ても不思議ではないと、心の準備はしておいたほうがいい」
◇木の実の豊凶が今後の鍵か◇
冬が終わる春以降は、山の木の実が鍵になりそうです。2025年はブナが大凶作。2026年予報では豊作や並作とされています。
星崎教授:
「ブナの花がそれなりの数が咲けば実がつくので、夏場以降、秋の出没はブナ豊凶予報通りになればクマは減るという予想が立てられる。花が咲けば安心というわけではない。少しだと実が虫に全部食われて実らないこともある。現状で分かることは、2026年にブナの花が咲きそうだと花芽の観察から予想されているだけ」
クマが市街地に出没する理由の一つは「食への執着」です。山に食べ物がなければ人里に降りてきます。木の実、つまりクマの餌が山にどのくらいあるかは、目撃情報や人身被害の件数と密接に関係していると言えます。
クマの異常出没に悩まされた2025年。新しい年は、制限なく屋外で活動できることを願うばかりです。
12月18日(木)20:00